道具愛「第2回:網に住まう2匹の蜘蛛」


◆一つのミスが大怪我を招くか、下手をすれば命の危険が伴うサーカス。だからこそ、難しい演技が決まったとき、なにものにも代え難い興奮を呼びおこします。その演技を支えるサーカス道具は、全てが強固で機能的、ほとんどがオーダーメイドで作られる物ばかりです。リハーサル期間は工事現場用品店や登山用品店に走ることもしばしば。愛すべきサーカス道具の数々を紹介して参ります。

久しぶりに更新するコラム・道具愛。第二回目は、私が最も好きなサーカス道具の一つをご紹介します。

空中ブランコ(フライングトラペーズ)は数あるサーカス演目の中でも日本では1、2を争う人気アクトかもしれません。美しい空中回転とキャッチが決まった瞬間は、何度見ても震えるような興奮を覚えます。道具の設営規模が大きく、世界中にそれほど沢山のグループが活動しているわけではありませんが、特にロシア、中央アジア、北米、中南米などで多くの空中ブランコチームが活動しています。また、北朝鮮の空中ブランコチームは、そのレベルの高さにおいてサーカスの世界では有名な存在です。主に5人から10人くらいの編成チームが多く、固定メンバーで活動するグループだけでなく、飛び手のアーティスト達が、契約ごとに様々なグループを渡り歩いていることもあります。サーカスファミリーの出身や、元体操選手といったアスリートからの転身組も多くみられます。

(Maya Nikolaevaのグループ:ロシア)

 その空中ブランコに無くてはならないのが、失敗した時に地面への転落を防止する安全ネット。長さ50メートル近い地引き網のような巨大なネットを張って、地面への落下を防ぎます。このネットを張るのがなかなか骨の折れる作業で、天井からは数カ所の強固な吊り点、地上では張力を維持する為、何箇所もアンカーが必要です。少ないチーム編成のメンバーだけではネットを張るのに時間がかかってしまいますが、ショウの最中はタイムイズマネーです。クラウンなどに時間をかせいでもらっている間に、劇場付きの専属のスタッフさんや、他の演目のアーティスト達にも手伝ってもらいながら、力を合わせて一気にネットを張ります。

(ネットの上は楽しい。サーカスと共に生きる子供たちの特権)

旧ソヴィエト国家にあるような高さ20メートルを超える数々の大きなサーカス場では、作りも等しくアンカーを取る位置がほとんど決まっていますが、新しい場所や、狭い空間で、ネットを安全にしっかり張るのは、全体のバランス取りがとにかく大変です。演技中、常に一定の高さ、一定の張力を維持しなくては、大けがにつながります。リハーサルの時は時間を使って、慎重に最適な張り方を探っていきます。ネットを張るにあたり、最も負荷がかかるアンカーは左右の2点のアンカーです。その2点のアンカーからは、オリジナルな道具がのびて活躍しています。それが、こちら。

角度を変えて

こちらの道具、見たことがありますか?この何の変哲も無い、緩んだワイヤーと滑車がついた機具に張力がかかると、こんなに男前な姿に変わります。

こちらは、たそがれ時の一枚。

ご覧ください、この緊張感、この勇姿。

全体図。

この道具、大きなネットに均等に張力をかけるのに欠かせない道具なのですが、足が8本あるように見えるので、彼等はパウーク(蜘蛛:паук)と呼んでいます。セートカ(ネット:сетка)とパウーク、空中ブランコの演技中は、2匹の頼もしい蜘蛛がアーティスト達の安全を見守っています。

この記事を書いたひと;辻 卓也

株式会社アフタークラウディカンパニー勤務。サーカスプロデューサー。ロシアやウクライナ、東欧などからサーカスアーティストの招聘が比較的多い。その他、ショウの演出やフライヤーデザインなどを行うことも。長身。

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