千秋楽のお楽しみ


◆11月24日リトルワールドの野外ステージには朝からたくさんのお客さんがつめかけていた。年間パスポートをもったサーカスファンのお目当ては、今日の千秋楽公演。ラストの公演でどんなハプニングが演じられるかを楽しみにしている。サーカス公演ではおなじみの最後の公演のおふざけ公演を舞台裏から見てみる。

2014年9月13日~11月24日、愛知県犬山市野外民族博物館リトルワールドで行われていた『ハンガリー・アメージング・サーカス』の公演が無事に千秋楽を迎えました。

2014年11月24日(月・祝)。愛知県犬山市にあるリトルワールドの野外ステージでは、9月13日から開幕した『ハンガリー・アメージング・サーカス』の千秋楽の公演が始まった。三連休の最後、快晴とあって場内に早くからお客さんが訪れ、開演前には満員となっていた。一回目の公演が終わり、楽屋で三回目の公演のあと行われる簡単なセレモニーの打ち合わせをする。メンバー9人のリーダー格デュオ・ゴールデンのラズローが、そのあとやって来て、「最終公演の時なんだけど、ちょっとふざけたことをやっていいだろうか」と言ってきた。千秋楽に出演者やスタッフさんが打ち合わせなしに、ちょっとおふざけするのはよくあることだが、私生活でも仕事でもなんの問題もなく、とにかくまじめな連中で、ここ何年かでは一番の優等生軍団だった彼らが、最終回の公演でジョークをしたいなんて言い出してくるとはちょっと意外だった。もちろんよくやることなので、OKした。

 

この千秋楽のおふざけ公演のことを、ロシア語では「ゼリョンヌィ」とか「ゼリョンカ」と言う。「緑色」という意味なのだが、その他にも「青臭い」とか「未熟な」という意味もある。なぜこれがおふざけ公演を意味することになったかはわからない。
 いままでいろんなアーティストと仕事をしているので、いろいろなゼリョンカを見ている。もちろんまったくおふざけなしの場合もある。今年の春のリトルワールドの『アスリートサーカス』の千秋楽ではほとんどおふざけなしだった。また前のボリショイサーカスのディレクターのカスチュークは、アーティストに対してゼリョンカは決して許さなかったという。お金を払って見に来ている人たちに、そんなおふざけを見せられるかということなのだろう。ゼリョンカでは、打ち合わせなしで、音楽を変えてみたり、道具を出すときにちがうものをだしたりということがわりとよく行われるパターンだ。何かあるかもしれないと出演者は予想しているのだが、その予想を越えることをなんとかしてやろうと、みんな考える。その過程が面白いらしい。人によっては何週間も公演が終わって、練習することもある。サーカスはずっと同じメンバーで公演されるということはなく、番組ごとにメンバーも変わる。ショーは、一期一会、出会いの場である。そして一ヶ月なり、三ヶ月なり、そのショーで一緒に仕事をしてきた人たちが、千秋楽を最後にまた散り散りばらばらになってしまう。そんな別れを笑いながら送りたいということなのだろう。だいたいチームのまとまりがいいとき、ゼリョンカはかなり念入りのものになるがこの逆もある。つまりまとまりがなく、メンバー同士そんなに仲がよくないと、嫌いなアーティストに対する嫌がらせみたいなことをする輩もいた。綱渡りの女性が舞台に立つと、いつもかかる音楽ではなく、別のアーティストがマイクをもって舞台にあがり、アカペラで歌いはじめたことがあった。最初は笑って綱渡りの演技をしていたのだが、その歌がなかなか終わらず、明らかに困った表情になっていた。やっと演技を終えて袖に引っ込んだとき、怒りで顔は真赤、そして目に涙を滲ませていたなんてこともあった。
さて今回のメンバーはどんな千秋楽のショーを演じるのか、三回目の最終公演にもたくさんのお客さんがやって来て、場内は満員となった。
オープニング。いつものように「チャルダーシュ」のメロディーが流れると、メンバーがペアになって舞台に現れるのだが、デュオ・トラペーズのベッテイーナが男装、デュオ・ゴールデンのガボが女装で出てきたのには大笑い。

どうやら彼らはかなり本気でゼリョンカするようだ。デュオ・トラペーズのふたりはかなり手のかかることを随所でやってくれた。オープニングの芸のエアリアルストリングの時に、男装して客席に忍び込み、演技が終わると客席から舞台に現れ、演技を終えたベッティを抱きかかえ袖に連れていった。ゼリョンカの時に圧倒的に不利なのはクラウンである。彼のやることはまさにおふざけ、なにをしてもクラウニングをやっているとしか思われない。そういうこともあってクラウンはいつもどおりの演技をしていた。

デュオ・トラペーズのふたりの演技の時には、デュオ・ゴールデンのふたりが黒装束でサングラスをかけて、演技中ずっとふたりのブランコの演技を見上げていた。これにはブランコの上のふたりも笑いをこらえきれず、吹き出しながら演技をしていた。

そしていよいよエンディング。最後の演技ローリングウィールでは、最後にフェレとゾフィアが抱き合うところで終わるのだが、このとき全員がカップルで出てきて、抱き合うではないか。珍しくジーンとしてしまった。

彼らの仲のよさ、チームワークのよさがよく出ていたゼリョンカだったといえる。ゼリョンカは、大きな事故もなく、たくさんのお客さんに喜んでもらい、がんばって公演してきたアーティストたちが、自分たちに贈るプレゼントではないか。このメンバーがまたいつこうして一緒になれるかわからない、ただそんなことで感傷的になるのではなく、精一杯楽しもうということもあるのだと思う。ほんとうにまじめなメンバーだったが、この日はリトルワールドが用意してくれた打ち上げでもはじけていたし、そのあとも宿舎に帰り、陽気に飲み騒いでいた。彼らもそれだけ楽しい公演だったのだろう。

この記事を書いたひと;大島 幹雄

元㈱アフタークラウディカンパニー勤務。宮城県生まれ。早稲田大学文学部露文科卒業。海外からサーカスや道化師を呼んで、日本でプロデュースしている。石巻若宮丸漂流民の会事務局長、早稲田大学非常勤講師。デラシネ通信社を主宰、不定期刊行の雑誌『アートタイムス』を刊行。

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